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【山田将司】「THE 茨城愛-online -」~愛はライブハウスを救う~
2020年11月7日(土)club SONIC mito
【マシコタツロウ】「THE 茨城愛-online -」~愛はライブハウスを救う~
2020年11月7日(土)club SONIC mito
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「THE 茨城愛」-外伝-
2022年2月22日club SONIC mito

「THE 茨城愛」-外伝-【ライブレポート】~「ハナミズキ」が繋いだ想い~
2022年2月22日club SONIC mito
〈取材・文:池田小百合/写真:須藤涼子〉
一青窈の代表曲「ハナミズキ」を敬愛するボーカリストと作曲者、2つの声が重なった夜。
2022年2月22日、茨城県水戸市のclub SONIC mitoで、茨城県人による茨城愛に溢れるイベント「THE 茨城愛」が、「THE 茨城愛」-外伝-として開催。茨城県出身のアーティストであるTHE BACK HORNの山田将司とマシコタツロウの2人が出演した。今回はこの2人でなければならなかった理由がある。それはなんだったのだろうか?
「THE 茨城愛-外伝-」開催経緯
都道府県魅力度ランキング最下位の常連である茨城県。その県庁所在地である水戸市は、都心から100Kmほどの距離であり、常磐自動車道や特急電車なら90分ほどで到着する。気軽に行ける地方都市の水戸だが、駅周辺には田舎あるあるな時代錯誤なヤンキーの姿も。
そんな茨城県で生まれ育ち、「THE 茨城愛」を主催する須藤涼子さんはもともと地元が嫌いだった。東京に行ったときに、田舎でダサい茨城から来たとは言えなかった。そんな中、親が好きなバンドのライブに付き添いで見に行き衝撃を受けた。そしてメンバーの1人が茨城県出身であることを知った。それがTHE BACK HORNのボーカル山田将司だ。彼らのファンになり「茨城にこんな素晴らしい方がいることがうれしい」と感じた。次第に地元のことが好きになり「茨城から来ました」と堂々と言えるようになった。
それから10年後の2017年、茨城県人が主催の茨城県出身者が出演する茨城愛を広く伝える目的のイベント、「THE 茨城愛」を立ち上げた。「茨城を愛せるきっかけになった山田さんに出てもらいたい!」そう考え何度か事務所と交渉を行うが、屈指のライブバンドである彼らのライブと開催日が全て重なり、出演できない状況が続いた。その後、コロナ禍に突入し、THE BACK HORNが有観客ライブを行っていなかった2020年11月「THE 茨城愛-online-〜愛はライブハウスを救う〜」でついに初出演となった。そして、マシコタツロウも出演。その日の出来事がきっかけとなり今回「THE 茨城愛」-外伝-として共演が決定した。
同イベントは、本来2021年9月14日に開催予定だったが、緊急事態宣言の発令で中止となった。今回はそのリベンジ公演という位置づけとなる。しかし、本日もまん延防止等重点措置の期間であり、前回より新型コロナウイルス感染症がまん延している状況であった。そこで須藤さんは悩んだ末、出演者の2人に相談。すると、出演する意向を示した上で「いいライブにするから、意志を貫いてほしい」と後押しされて開催を決断した。
水戸駅より西へしばらく歩き、南町三丁目商店街にある雑居ビルの中にclub SONIC mitoの看板が見えた。階段を降りて、鉄格子が張り巡らされた迷路のような通路を抜けてSONICのフロアに足を踏み入れると、詰めかけた観客で座席はほとんど埋まっており、イベントの開始を心待ちにする空気が感じ取れた。
フロア内では、茨城県内の音楽シーンの活性化を目的としたプロジェクト、ヒカリノハコがリリースしたオムニバスアルバム『茨城大爆発』が流れている。開演直前に主催者の須藤さん自らが注意事項のアナウンスを行い、最初の出演者が登場した。

【マシコタツロウ】
キーボードがセッティングされたステージに、スーツ姿で登場した誠実そうな男性。たぶん、いや絶対にマシコタツロウのはずなのだが、マイクの前に立つと「こんばんは!磯山純です!!」とあいさつし、さっそくフロアから笑い声がこぼれる。実は、登場する直前に会場で流れていたのが、茨城でフェスの企画も行うアーティスト、磯山純の楽曲だったのだ。このあいさつとフロアの反応が「THE 茨城愛」ならではなのだろう。
マシコは常陸太田出身で、一青窈の代表曲「ハナミズキ」を始め、ジャニーズの楽曲も多く手掛ける作曲家だ。しかし、作曲家だけではなく茨城放送でラジオ番組のDJとしての顔も持ち、その経験からか滑らかなトークでフロアの緊張感をほぐす。
「マシコタツロウです。声が出せないと思うので、手拍子をいただければうれしいです」と再びあいさつし、「区画整理できないマイハー」からライブが開始。キーボードの軽やかな演奏が始まると、さっそくフロアから手拍子が起こる。
「飲んだ翌日は二日酔いで気持ち悪いけど、その中に気持ちよさがあります。それは、飲んで友達と話した内容を思い出して自分も頑張れる気がするから。また気軽に飲みに行けるようになったら、仲間とガブ飲みしたいです」と伝え、NTT西日本のCMソングにもなった「限りないもの」を演奏。MCで話したような気の置けない仲間のことを歌っている。〈限りあるものと 限りないものが この世にはあるんだな〉と歌うサビの3連符がキャッチーでつい口ずさみたくなる。
次に「曲作りを始めた小学6年生のころは、歌ってくれる人がいなかったから、自分で歌い始めた」と話す。そんな経緯から作曲家デビューと同時に歌手活動も始めた。現在も作家として楽曲提供を行うが、「何をテーマにするかは難しいけど、自分で歌わないといけないこともある気がしている。今年はデビュー20周年なので、何か形に残したい」と作品リリースへの意欲を見せた。
岸洋佑に提供した楽曲で「自分自身もしっくりくるから歌いたい」と話し演奏した「記念日」は、社会人経験があれば共感できるような光景が描かれている。マシコは2年ほど会社勤めをしたが「自分が自分じゃない気がして」離れた。その経験から、自分の人生を自分で決めた日を「記念日」とする力強いメッセージが込められている。実際に岸も芸能活動を一度離れて社会人経験をしている。そんな彼の気持ちに寄り添う楽曲を、ストリングスとバンドアレンジの演奏の下で自身の感情も込めて歌う。
「この時代はストレスがたまり、何が楽しくて生きているのかわからなくなって、良くない気持ちに陥ることがある」と話す。「朝起きて、よく寝たなって感じて、ご飯が食べられるだけで幸せなのに、贅沢になる。好きな人が側にいて、好きな音楽をやって、皆さまが会いに来てくれる。この幸せな気持ちを忘れちゃいけないなと思います」と話し、大切な人の喪失を歌う「旅人」、目の前にあるものへの感謝を伝える「手のひら」へ。弾き語りに戻り、艶やかで少しハスキーなマシコの声が、観客の心を抱擁するように伸びやかに包む。
「作家をしていると『どうやったら聴いてもらえるかな?』って難しく考え過ぎてしまう。だからこそ『簡単に作ろうぜ!』って思って作ったけど、実際は難しくなっちゃった」と話し「EASY」が始まると手拍子が起こる。〈BPM160〉くらいのリズムと歌詞にあったが、実際にも同じくらいのリズムを軽やかに刻んでいた。
前回の「THE 茨城愛-online-」ぶりの共演となる山田将司について「山田さんとは1回しか飲んだことがないけど、もう大好き!」と告白。楽屋でライブ直前まで映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するタイムマシンになる車、デロリアンの話をしていたと関係の良さが伝わるエピソードも。次第に茨城なまりが強くなっていくマシコのMCにフロアから笑いがこぼれる。
〈今日もすいている〉と茨城県全域を通る常磐道のことを歌った「JB Freeway」では、フロアから手拍子が起こり、鍵盤が跳ねるようなサビでタオルが回る。その久しぶりに見る光景は、まるでフェス会場のようだった。前回出演したオンラインライブでも演奏したが、マシコにとって今年初の有観客ライブということもあり、目の前に観客がいる安心感が伝わってきた。
最後に20周年を迎えられた感謝の言葉を観客に伝える。「こうやって皆さまと過ごしている時間が一番自分らしくいられる瞬間で幸せです。曲で想いを伝えるのはベタですが、やっぱり皆さまに喜んでほしいと思ってやっています。そしてそれが自分のためになっています」と話し、「ごめんね」より「ありがとう」という気持ちを込めた6拍子の楽曲「あなたのいない季節なんて知らない」を演奏。ラストの「Oneday,Everyday」は、自分がパイロットだったらどうだろう?そんな“たられば”を問いかけつつ、それでも自分が選んだ今の生活で出会った相手への感謝を歌っている。ストリングスアレンジの中、最後の転調で華やかな色彩を感じさせた。海のような心の広さを持つマシコの人柄が十分に伝わるステージだった。
[SET LIST]
1.区画整理できないマイハー
2.限りないもの
3.記念日
4.旅人
5.手のひら
6.EASY
7.JB Freeway
8.あなたのいない季節なんて知らない
9.Oneday,Everyday

【山田将司】
続いては、バンドではおなじみの白いシャツ姿で登場した山田将司だ。ソロ名義のライブでは、所属しているバンドTHE BACK HORNの楽曲を主に、ソロ名義の楽曲やカバー曲も演奏する。
「THE BACK HORNボーカル山田将司です」とあいさつを行い、最新アルバムに収録の「ソーダ水の泡沫」からライブが開始した。〈寄り添うように 離れないから〉と言いながらも、それが小さな嘘だと気づいている無常さを歌う甘くて切ない楽曲。多彩な声を持つ山田の声を引き立てる、ヤイリのアコースティックギターの豊かな高音域が響く。最初は無垢な少年のような声を響かせたが、THE BACK HORNが1998年に結成して最初にできた楽曲「冬のミルク」では、少しハスキーな声質に。
最初のMCではこんな告白があった。「今回はこのようなご時世で、開催できるかどうかという話もありましたが、実は俺自身が一カ月前に……ようせ……えー、フェアリーになりまして」。その隠語の意味を即座に理解した観客。声を出してはいけないことをわかっているはずだが、こらえきれなかったような笑い声がフロアに響く。今年に入り、新型コロナウイルスのオミクロン株による感染が急拡大。東京都のCOVID-19新規感染者数が1万人を超えた1月下旬に山田も発症した。「もう今は誰が……フェアリーになるかわかんないですから」と笑いを取る。さらに「今日、このご時世で集まってくれたみんなの覚悟、そして音楽への愛が伝わってきます」とお礼を言う。
次に演奏した「瑠璃色のキャンバス」は、2020年4月最初の緊急事態宣言下で山田自身が作詞作曲を行った。「ステイホーム」と称して、気軽に人と会ってはいけないという風潮があった期間だ。そんな中で〈離れても胸の奥繋がって 生きてゆく糧になれ この空を越えて 魂 重ね合わせよう 僕らの場所で〉とリスナーとライブへの想いを込めた歌詞に励まされた観客も多かったはずだ。そして、ライブが開催されるようになった今〈あなたを想えば なんだって越えてゆける そんな気がした〉と吐露する歌詞は、リリース当初とは違い、同じ想いを観客が共有し、共鳴しているようだった。
ここで、近況報告のようなMCがあった。まず、電子バイオリンやガットギターなどの楽器演奏を始めたことを話す。「中学生で初めてクラシックギターを始めたころを思い出すし、違う楽器に触れると、曲作りの役にも立つし、結局バンド活動に繋がる」と。次に「いいイメージをすると成功する。だから、いいイメージをしたい。でも、ポジティブって難しいべって思ってでぇ」とマシコのときと同様に徐々に茨城なまりが強くなり、フロアから笑い声がこぼれる。そこで、ポジティブな言葉を書いて壁に貼り、いつでも見られるようにと考えて書道セットを購入した。ただ、楽器は作品集を見てまねから始めたが「バンドでは『まねじゃねー!俺は俺なんだ!』って気持ちが暴走して今がある」ため、書道に関してはまねをせずに自分の感性だけで書いた。しかし、結果的には飾れるような作品とはならなかった。そこで、ネットで字体を調べてまねをして書いてみたが、その中に自分らしさがあったのだと。だから、まねをしても自分が出るからいいのだと気づいたという山田。そんなMCから、あらゆる物事に真摯に向き合う姿勢が感じられた。ちなみに、何を書いたのかは「恥ずかしいから言えない」とのこと。
ここで2曲続けてカバー曲が。松任谷由実の「春よ、来い」は、東日本大震災があった2011年、THE BACK HORNの自主企画のライブ『マニアックヘブンVol.6』で最初にカバーされ、ソロ名義のライブでも演奏されている。この禍がよくなることを祈るような伸びやかな声が響いた。次は山田が敬愛するSIONの「2月というだけの夜」。しわがれたSIONの声と比べ、大人になりきれないような山田の声の対比が印象的。また、子ども時代に内緒で川遊びをしていたことを回顧する描写が歌われる。2月というには、ギャップを感じる歌詞に、大人になった主人公の空虚さが胸に広がっていく。そんな山田の歌に、フロアは身動きひとつせずに聴き入っていた。次に演奏した「君を守る」は、バンドでは珍しいラブソングで、昨年末まで開催されていた『マニアックヘブンツアーVol.14』で演奏されていたことから、ライブを見たファンは記憶に新しいだろう。ちなみに、1曲目に演奏した「ソーダ水の泡沫」では〈離れないから〉、「君を守る」では〈離れないで〉と歌っていることに気づく。2007年に所属レーベルのイベントでつじあやのと共演した際に、山田が歌い始めた15歳のころをイメージしてつじが歌詞を書き、山田が作曲をした「15歳」を最後に演奏。〈歌い続けるよ 声が枯れても〉と少しだけ枯れた声で歌う姿が力強く、胸に染みた。
アンコールセッション
アンコールでは山田とともにマシコも登場した。本編で、キーボードがステージから片付けられずに置いてあることに言及。「一緒になんかやります感が出ていますね」と匂わせてはいたが、実はアンコールでセッションすることを、当日のリハーサルまで知らされていなかった山田。会場入りする直前に「Twitterで茨城愛のアカウントが『茨城愛ならではのスペシャルな事もあるかもよ』って書いていた」ツイートを見て、「ハナミズキ」のセッションが予定されていることを察したのだそう。
実は、「THE 茨城愛」-外伝-は、「ハナミズキ」のセッションのために企画された。前回開催された「THE 茨城愛-online-〜愛はライブハウスを救う〜」で、マシコが演奏した「ハナミズキ」に感銘を受けた山田は、自身の出番で急遽予定を変更して「ハナミズキ」をあえてかぶせた。この楽曲を敬愛し、10年以上前からソロ名義のライブで演奏していたからこそのエピソードだ。マシコは出番の後、次の仕事があり会場を出たために山田の「ハナミズキ」を直接見られなかったが、この話を知ったマシコは、山田に連絡を取り親しくなった。そのような経過から、主催者の須藤さんは「次はこの2人のツーマンで、2人がセッションするハナミズキが聴きたい!」と考えた。そこで、普段の「THE 茨城愛」とは形を変えて、ツーマンライブで今回の企画を立ち上げた。だからこそ、「THE 茨城愛」-外伝-は、この2人でなければならなかったのだ。
後日談ではあるが、すいたんすいこうのラジオ番組『すいすい水曜茨城愛』に体調不良の芸人に代わり、彼らのマネージャーでもある須藤さんが出演。ライブの裏話を披露した。まずは公演前にマシコに「ハナミズキ」のセッションを提案して依頼した。マシコから「山田さんと連絡を取り合うね」と返答があったが、「やっぱり、山田さんには当日伝えた方がロックでいいんじゃないか」と考えが変わり、当日までシークレットとなった。
マシコが「事前に譜面を起こして練習する姿勢が、山田さんのキャラじゃない気がして」と話すと「なんか俺が雑な人みたいじゃないですか」とさりげなくつっこむ山田に2人の関係がうかがい知れた。「山田さんと山田さんが好きな人と、マシコとマシコが……好きかはわからないけれど、皆さまが100年続きますように」と、マシコが祈るように語り、キーボードとギターで演奏された「ハナミズキ」。メインボーカルを1番は山田、2番はマシコと交互に歌い、最後のサビはアイコンタクトを取り合う2人のハーモニーが響く。〈君と好きな人が 百年続きますように〉の「と」が前回と同様に耳に引っかかる。マシコが歌詞について語っていたMC(前回のレポート参照)を思い出すと、大切な人が大切にする人まで想う気持ちを持つことで、感染症に加えて世界情勢まで不安定となっている世の中が少しでも穏やかになるのだろうと感じた。
2歳上の先輩を気遣うように、マシコに先を譲って退場しようとした山田だったが、結果的にマシコに譲られて、ほぼ同時に退場するというほほ笑ましいラストシーンとなった。
[SET LIST]
1.ソーダ水の泡沫
2.冬のミルク
3.きょう、きみと
4.瑠璃色のキャンバス
5.春よ、来い
6.2月というだけの夜
7.君を守る
8.15歳
ENCORE
1.ハナミズキ
あとがき
終演後、会場に再度『茨城大爆発』の楽曲が鳴り響く。そして、主催の須藤さんが本日出演した2人と、この状況下でも来場を決意した観客に向けて丁寧にお礼のあいさつを行い、そのまま出口に立ち観客を見送った。「THE 茨城愛」は、作った人の顔が見えるアットホームなイベントを目指しており、毎回このように観客を見送っている。
コロナ禍の現在、茨城の音楽シーンは都市部とは違う事情を抱え、思うように動けないアーティストも多い。しかし、水面下では力を蓄え爆発する機会をうかがっているのではないか。その中で「THE 茨城愛」は、茨城の底力を伝えていく重要な役割を担っていくことだろう。
都道府県魅力度ランキング最下位であることさえ誇らしく思えるような、茨城愛がここにはあった。